エッセイのページ

アイム ハングリー
 この飽食な日本の中で、かって今まで、ひもじい思いをしたことがあっただろうか。
もともと私は、食べる事も精神的にもハングリーの方が好きで、例えば、人と会う約束が有ったり、何か意気込んでやらなければならない時は、食べない。人生についてもそうだ。何か成し遂げたい夢や、とてつもないでっかい計画を持った時、すぐそれらの望みが叶ってしまうよりは、あがきながらも考えてそのプランを練り、ただひたすら『希望』という乗り物に乗っかろうと突進する事の方が好きだ。又、苦境に立たされた時は、自分のお尻をひっぱたき『諦めるな!』と、発破をかける。いや、かけたと過去形かな?

 現在形では、主人ではないが「腹減った〜」状態で、思考力が乏しい。と、言うのも、糖尿病の主人と同じ低カロリー食の毎日なのでアイム ハングリーだ。
自分の意思で食べないのと、強制的に食べられないのとでは、こうも違うものなのかと体感中で、笑ってしまう。
知ってます?空腹状態がどんなのかを。
まず、脳から空腹感が伝わってくると、胃がきゅ〜んと締め付けられたようになる。唾液が出る。脂汗が出る。何でもいいから口の中にぱくっと放り込みたい衝動にかられる。これに耐えられるかが正念場だ。が、耐えられないっ。思わず冷蔵庫を開けるが、望みのスイーツは無い! 最近甘い物の差し入れがとんと無くなり、まるで私自身が糖尿病みたいだ。仕方なくきゅうりをポリポリ、たくあんパリパリで我慢をする。

 メッシュフラワーの仕事で週2回の外出が、主人には悪いが、この時こそ好きなものを飲食をするチャンスで楽しい。
友人と会う時はモンブランのケーキが定番だが、最近衝撃的な物を食べた。
ずっと以前から気になっていたが、おしゃれをして出かけた時に食べるには似合わない物なので諦めていた。しかも一人で食べるには勇気がいる。
ある日、あまりの空腹感で胃がきゅ〜んとなり悶えていると、脳から『食べてもよい』と指令が出た。
私はなり振りかまわず言った。
「ひとつ下さい」
「120円です」と屋台の人。

 うひょひょ〜。こんなに美味しい物がこの世の中にあったのか、と、思わんばかりの素晴らしさ!
キャベツの千切いためと半熟たまごがうまくマッチングした具を、クレープ状に巻き、ソースたっぷりのお好み焼きの子分みたいなキャベツ巻き。一度は食べてみたかった憧れのキャベツ巻きだ。
むさぼるように食べていると、何やら遠くの方で視線を感じる。ふと目をやると、ホームレスの人がじっと見ていた。
隣のファーストフード店では、人々がハンバーガーを口にしながらおしゃべりに余念が無く、彼の存在は全くの無視。
一体、この落差はなに?
この飽食な日本の中で、貧困ゆえに物を口に出来ない人がいる。それを横目に平然と食べている人々がいる。
「神よ、あの人にも恵みを」と、心から思い私は食べるのを止めた。

 主人は最近、血糖値を始め、もろもろの数値が平均になったと担当医に告げられて喜んでいる。
低カロリー食を作りながら私は思う。
自分が空腹を味わう事で、人の痛みや健康について考えるようになった。アイム ハングリーも悪くないかも・・・・と。

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